日本語教師になって初めて「あげる・くれる・もらう」を教えたとき、多くの先生がこう感じます。
「説明したときはみんな分かった顔をしていたのに、練習になると全員間違える……。」
実はこれは珍しいことではありません。
「あげる・くれる・もらう」は、日本語教師にとっても学習者にとっても難しい文法の一つです。
特に英語話者の学習者は苦戦します。
なぜなら英語では基本的に “give” と “receive” で表現できることが多いからです。
しかし日本語では、「誰の立場で話しているのか」がとても重要になります。
今回は新人日本語教師向けに、「あげる・くれる・もらう」をどう教えればいいのかを紹介します。
新人教師が最初にやってしまうこと
多くの教師は最初にこう説明します。
- あげる = give
- くれる = give
- もらう = receive
もちろん間違いではありません。
しかし学習者はすぐに混乱します。
なぜなら、
「あげる」と「くれる」はどちらも give ですよね?
という疑問が出てくるからです。
ここで英語訳だけに頼ると、ますます分からなくなります。
大切なのは「誰の立場か」
この文法で一番大切なのは、
話している人がどこにいるか
です。
私は授業で必ず人の絵を書きます。
そして真ん中に「私」を置きます。
すると学習者は理解しやすくなります。
「あげる」のイメージ
まずは「あげる」です。
私から誰かへ何かを渡します。
例文
- 私は友達に本をあげました。
- 母は私にお金をあげました。
「あげる」は、
A → B
というイメージです。
物や行為が外へ向かっています。
「くれる」のイメージ
次は「くれる」です。
例文
- 友達が私に本をくれました。
- 先生が私にアドバイスをくれました。
ここでは物が私の方へ来ています。
つまり、
誰か → 私
です。
新人教師はここを強調しましょう。
「くれる」は必ず話し手側に向かうイメージがあります。
「もらう」のイメージ
最後は「もらう」です。
例文
- 私は友達から本をもらいました。
- 私は先生からプレゼントをもらいました。
今度は受け取る側に注目しています。
つまり、
私 ← 誰か
です。
「あげる」「くれる」が渡す人に注目するなら、
「もらう」は受け取る人に注目する表現です。
学習者がよく間違える例
例えば、
先生が学生に本を渡しました。
このとき学習者はよく、
先生は私に本をくれました。
と言えます。
これは正しいです。
しかし、
学生が先生に本を渡した場合、
私は先生に本をくれました。
と言ってしまいます。
これは不自然です。
正しくは、
私は先生に本をあげました。
です。
なぜなら「くれる」は私の方へ来る動きだからです。
学習者への説明
授業では難しい説明は不要です。
私はよくこんなふうに話します。
先生:
「あげる」は外へ行きます。
(矢印を外へ書く)
先生:
「くれる」は私に来ます。
(矢印を自分へ書く)
先生:
「もらう」は受け取ります。
(プレゼントの絵を書く)
学習者:
ああ、方向が違うんですね。
先生:
そうです!
この瞬間に理解する学習者はとても多いです。
会話練習で定着させる
説明だけでは定着しません。
練習が必要です。
例えば、
先生:
私が田中さんに本を渡しました。
何と言いますか?
学習者:
先生は田中さんに本をあげました。
先生:
正解です。
次。
先生:
田中さんが私に本を渡しました。
学習者:
田中さんは先生に本をくれました。
先生:
そうです。
このような練習を繰り返します。
「てあげる」「てくれる」「てもらう」はさらに難しい
初級後半になると、
- 教えてあげる
- 教えてくれる
- 教えてもらう
が登場します。
ここで再び学習者は混乱します。
しかし考え方は同じです。
例文
- 私は友達に日本語を教えてあげました。
- 友達が私に日本語を教えてくれました。
- 私は友達に日本語を教えてもらいました。
方向を意識できれば理解しやすくなります。
新人教師が覚えておきたいこと
この文法を教えるときは、
「与える人」と「受け取る人」
ではなく、
「誰の視点で話しているか」
を意識すると説明しやすくなります。
また、
長い説明よりも絵や矢印の方が効果的です。
実際、多くの学習者は文法説明より図で理解します。
まとめ
「あげる・くれる・もらう」は、日本語教師が最初に苦労する文法の一つです。
しかし、
- あげる → 外へ行く
- くれる → 私に来る
- もらう → 受け取る
というイメージで説明すると、学習者は理解しやすくなります。
授業では難しい文法用語を並べるよりも、
「矢印で方向を見せる」
ことが何より大切です。
学習者が「あげる」と「くれる」の違いを理解できたとき、日本語の人間関係の見え方も少しずつ変わってきます。
そして教師自身も、
「なるほど、だから日本人はこの表現を使い分けているんだ」
と改めて気づくことができるでしょう。

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